「もう治療法はありません」と言われたら・・・⑨
肺がん8年生MIRAさんが言われた
「もう治療法はありません。あとは緩和ケアに行ってください」
患者はこの言葉をどう受け止めたらいいのでしょう。
もっと言えば、「抗がん剤治療をやめる時」はいつか来る。ならば、患者はどう考えたらいいのでしょう?
そんなことを考えようと始まったこの企画。
★MIRAさんのインタビューはこちら♪
ピアサポーターよこはまの武岡さんにお話を伺っています。
今回は、その3回目。
「治療法はありません」と言われ相談に訪れたのは、今まで19件ありました。
やはり「納得できない」という結論になる場合が多く、16件あったそうです。そりゃそうだと思います。簡単に納得できるものではない。
しかし、残りの3件は「抗がん剤をやらない」という選択をしたそうな。どんな考え方だったのでしょう?今回はそこを聞いてみました。
正直なところ、なにか傾向があるのではないか、と考えていました。結果的には三者三様。私・さくえもんの考えがかなり浅はかなこともわかりました。全くまとめられませんので、聞いたことをそのまま書きます。
※最期をどうすごすか、その決断のお話です。そういう話を聞きたくないという方はスルーしてくださいね。
■一人目 Aさん 女性 50代 独身 すい臓がん
すい臓がんが進行した状態でAさんは武岡さんのもとを訪れました。皆さんご存知のとおり、すい臓がんは予後が悪い。
Aさんはこういった厳しい現実を前にして、武岡さんに「ある決意」を話し、どうすべきか、相談したと言います。
苦しんだ顔で死にたくない、と言うんです。お葬式のときに来てくれた方が私を見たときに、きれいな私でいたい。苦しんだ顔を残したくない、見せたくない、という方でした。「美」というものに人並みはずれた高い意識を持つ方。だから抗がん剤をすれば、その苦しみで、そういった顔を残してしまう。それはAさんにとってとても耐えられないことのようでした。だから抗がん剤はやりたくない、と。生きることよりも亡くなった時の事を想像している。
そこまでの強いこだわりがあるんだったら・・・私はなにもいえない。
ひとつだけアドバイスしました。抗がん剤をやらないからといって、苦しみの顔でなくなるわけではないこと。何もしないことが、Aさんの願いをかなえる方法ではないことを伝えました。そのためには、在宅治療をきちんと受けて、痛みをとることが必要です。穏やかな顔で亡くなりたいのであれば、そのためにやらなければいけないことがあると伝えました。
■二人目 Bさん 女性 大腸がん
看護師としてバリバリ働いていたBさん。2ヶ月ほど前に職場で突然倒れたそうです。そして大腸がんであること。かなり進行した状態であることがわかりました。
その告知の内容もさることながら、「医師の告知のやり方」にはBさんはかなりショックを受けたようです。
たった一言でした。
「看護師なのにこんなになるまで放っておくなんて・・・もう治療法はない」とこれだけ。冷たく突き放されて、終わりでした。
Bさんは看護師としての自分の仕事、そして職場に誇りを持っていました。しかし、いざ自分が病気になると、患者の気持ちに寄り添いもしない現実に失望したそうです。いや、絶望。
こんな冷たいところで私は働いていたのか?
自分が信じ、長年やってきたことはなんだったのか?
自分のやってきたことすべてが否定されたように感じたそうです。
傷ついて、「死が来るのを受け入れます」と言うんです。相手はプロだし、自分がどうなっていくかは全部わかっている。これはピアサポートの範疇を超える。ただ、Bさんが吐き出すものを受け止めるだけ。悔しさはわかります。だから「悔しいですね」とただ受け止めました。電話で相談を受けました。30分話すともう息苦しくなる状態でしたね。自分の部屋で、天井見ながら電話されているんでしょう。4回相談があったのかな。それ以降はわかりません
■三人目 Cさん 男性 大腸がん
サーフィンが大好きというCさん。定年後、そのサーフィンがやりたくて、海の近くに引っ越しました。その半年後、がんがわかったそうです。抗がん剤治療をしても2年ほどと言われ、武岡さんのもとを訪れました。
相談に来たときは漠然としていますから、傾聴し、Cさんが何を本当に相談したいのか、探っていきます。すると浮かび上がってきたのは、「家族が抗がん剤治療を勧めるのだけども、Cさんはやりたくない」ということでした。
武岡さんいわく、「抗がん剤のやめ時」は「家族」(だいたい子供ね)が非常に重要な役割を果たすと言います。おおよそのケースで、家族は抗がん剤治療をやめることに反対するそうです。家族は「抗がん剤をやめる」ということを「自殺するようなもの」と考え、最後まで戦うことを希望するのだそう。本人がつらい状況で、やめたいと考えても、やめさせない状況が起こるそうです。
Cさんもこのような状況が起こっていました。
まず武岡さんは、なぜやりたくないのか?その理由を具体的に質問し、探っていきます。すると、Cさんの気持ちが浮かび上がってきました。
Cさんの趣味はサーフィン。それをするために海の近くへ引っ越したほどです。抗がん剤治療をすれば、その副作用で物理的にサーフィンができなくなります。それが一番つらいことでした。それはCさんにとって「自分の人生ではない」と考えていることがはっきりわかったのです。さらに、今ならどちらかを選べるところにいる。
Cさんはその生き方がはっきりしていました。しかし、家族は反対の立場。だから、「そうだ、それでいい」と背中を押してくれる人が欲しかったんだと思います。だから私は背中を押しました。Cさんは、その後、新年の挨拶に3回来てくれたかな。「死神じゃねえぞ、生きてるぞー」って言って。サーフィンも続けていると言ってましたね。
ちなみに・・・
抗がん剤のやめ時・・・家族の意見に従い、「続ける」という判断をする人もいます。「子供が言っているからもうちょっとがんばろうかな」って言うそうです。その時には、「(年取ったって)お父さんですもんすね。子供の願いを叶えようとするのは応援します」と言うそうです。
以上で、ピアサポーター武岡さんのインタビューは終わります。
ありがとうございました。
次回は・・・
「もう治療法がありませんと言われたら・・・」最終回です。
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