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LC-SCRUM その2

LC-SCRUM特集その2~!

では、詳しく聞いていこうじゃありませんか。

このプロジェクトの指揮を執る国立がん研究センター東病院の呼吸器内科長・後藤功一先生の登場です

 
後藤先生は熊本出身だそうです。柔和で患者さんを包み込むような語り口が印象的。でも同時に、肥後もっこすというんでしたっけ?一度決めたらどんなことがあってもやり通す、そんな強さを感じさせる先生でした。ではどうぞ~。

 

 ★LC-SCRUM
「1%の患者に薬を届けたい」無謀なチャレンジからはじまった。


 

さくえもん  

LC-SCRUMはどのようにしてはじまったのですか?

 

後藤

そもそも、2012年RET(れっと)の融合遺伝子が日本とアメリカから報告されたんです。 EGFR と ALK が薬まで開発されましたが、新たに注目された遺伝子ができました。RET と一緒に、ROS1(ろすわん)も報告されています。

ただ腺がんで考えるとEGFR は50%ぐらいいる。ALK が7~8%ぐらいでしょうか。

これから考えるとRETはぐっと減って1%の肺がんです。対象となる患者さんが少ないので、治療を開発していくのは非常に難しい。非常に問題がある。

例えば臨床試験を組み立てる。ある程度の人数がいないと難しい。わかりやすく言うと、100人とか。それぐらい集めないと正確な薬の評価ができない。ただし、1%の肺がんで100人集めようと思ったら何年かかるんだ。これは現実的に不可能。

 

さくえもん  

たしかに、1%に見つかるとして100人集めようとしたら、単純計算で1万人検査しなければならない。費用もかかりますよね。RETには効く薬があったんですか?

 

後藤

データを見ると、間違いない。RETにも同じように効果のある治療薬がある。EGFR はイレッサが効いた、ALK にはクリゾチニブが効いた、と同じようにね。

よく考えると、肺がん1年間に70000人から75000人がなくなっている。その中で1%の患者さんが亡くなっている。1%というのは750~700人ぐらいなわけだから結構な数です。 しかし、どうやって患者さんに届けたらいいのか? そこで、思考停止状態になった。

もともと僕は有効な治療薬を届けるのが目的で医者になったんだ。それができないのはあり得ない話だ。誰かがやらなければいけない。

方法として、すごくまれな変異であっても全国から集めれば臨床試験が成立するんじゃないかと考えました。チャレンジしないと前に進まない。そしてそのチャレンジのために LC-SCRUM を立ち上げました。

 

さくえもん

この LC-SCRUM は、先生から始まったものなんですね。

 

後藤先生

旗振り役だよ。国立がんセンターの職員だからできる。そういうアドバンテージがあるよね。で、1%は肺がんに対して、治療薬を届けましょうということで、研究会や学会で叫ぶと、同じモチベーションをもつ先生が日本は沢山いるんだ。一緒にやろうと言ってくれた。これは日本の素晴らしいところです。有効性のある薬があるなら、一緒に見つけましょうと立ち上がってくれた。多分成功体験として、イレッサやクリゾチニブが効いたというのがある。もう一つはハードルを越えてやろというモチベーションがある。そういう日本のお医者さんの気持ちが集まって LC-SCRUM ができた。

 

それから、たばこを吸わない人はなぜがんになったんだろう。一体何なんだろうとお医者さんも思っていた。では、そこに遺伝子変化はあるのだろうか。そういう思いがあったことも事実。実際RET や ROS1はたばこを吸わない人や若い人に多いことがわかってきた。だから日本全国で一挙にやろうということになった。こういう流れでここまで走ってきた。

 

さくえもん

いくつの遺伝子を調べているんでしょうか。

 

後藤先生

最初は3つでスタートしました。

まず ALK と ROS1と RET を LC-SCRUM ではスクリーニングしました。そしたら10%ぐらいが持っていた。残りの90%も他の遺伝子異常をもっているのでは?ということになる。一昨年の秋から、50種類を調べた。そしたら BRAF(びーらふ)HER2(はーつー)など沢山見つかってきた。患者さんはやっぱりなんらかの遺伝子異常をもっている。それで今年の3月20日から全員にマルチプレックス、国際基準と同じOCPというパネルが LC-SCRUM に導入されました。それで150種類の遺伝子を調べられる。それが今現在進行中です。

 

さくえもん

これから受ける人は、150種類の遺伝子を一気に調べるわけですね。

 

後藤先生

はいそうです。

 

さくえもん

実際のところ、遺伝子異常はどれぐらいの確率で見つかるのですか?

 

後藤先生

今で言うと75%・大体4分の3には、遺伝子異常があります。実際に3月20日から10例の結果が出たんだけども、結構な頻度であった。

 

さくえもん

なん何らかのものを持っていたわけですね。

 

★150の遺伝子を一気に調べると75%の患者になんらかの遺伝子異常が見つかる。
ということは分子標的薬を使える患者さんがメチャメチャ増えるということだ。
でもさ、でもさ、最近みつかった遺伝子異常に対して、薬が全部あるとは思えない。
そこのところはどうなんだろう。気になる~。質問を続けました。


 

 

さくえもん

75%の患者になんらかの遺伝子異常が見つかる。

では、見つかるとすべて治療に結びつくのでしょうか。

 

後藤先生

もちろんすべてに有効な治療薬があるわけではない。

イレッサやクリゾチニブのような薬が開発されているわけではないけど、今企業が開発している遺伝子に当てはまるものが結構見つかっています。

肺がんで今のところ治療薬のあるものは10種類ぐらい。

遺伝子を調べるのは国の研究費でやってきたんだけど、今製薬会社12社が参加してやっている。つまり製薬会社が検査、そのお金を負担する代わりに、データを共有しながらその治療薬の開発または治験に結びつけている、ということになります。だから,治療薬も増えていくよ。

 

さくえもん

検査で遺伝子異常が見つかる。薬もあった。

その場合はそこから治療への流れはできているんですか?

 

後藤先生

はい 、治験に登録できるようになっています。 例えば RET 。3月の頭で閉めた時は日本全国で34例見つかりました。その中で18例が治験参加しています。例えば私は熊本県出身なんだけども、そういう地方に住んでいても九州がんセンターの治験に参加できる。青森県に住んでいても、がん研有明病院で治験をしている。その流れができている。ROS1についても同じです。 ROS1は60人が見つかりました 今26人が治験に参加している。試験をやっているのは日本で10施設ぐらいあるんだけども。そこにちゃんと結びついています。 

LC-SCRUMが立ち上がったのは2013年の2月。その時の58施設でスタートした。今は200施設が参加している。わかりやすく言うと、日本全国の全部の都道府県で遺伝子スクリーニングができる。その結果を見て治験に参加できるということになった。

 

 

★今、治療がどんどん変わろうとしている・・・そんな流れを感じました。
そして、この分子標的薬開発の流れがたどりつくところ、それはがん治療の概念を180度覆すものらしい。今までは肺がんには肺がんの薬、大腸がんには大腸がんの薬と、臓器別に治療が行われていた。しかし、遺伝子異常にはそんな部位の区別はないと言う。例えば、肺がんと大腸がんには共通する遺伝子異常があることがわかってきた。


 

後藤先生

これは ALK がきっかけです。 ALK は大腸がんにもあるんです。頻度は少ないんだけどもね。だから多分今後の流れとしては、今すぐではないんだけども。臓器を問わず同じ遺伝子変異を持つがん、それに対しては遺伝子に効く薬が効くはずなのでそれを使う。もちろん臓器別のラインも残っています。

まずは肺がん と 大腸がん、今後は食道癌や胃がんが入ってくる。だから臓器を問わず遺伝子スクリーニングをして、その遺伝子にあった治療をする。個別化医療ですね。そこを目指している。

 

さくえもん

私が5年前に患者になった時には、薬が効くか効かないかは前もってはわからない。やってみて初めてわかる。個別化治療という言葉はあったけれども、みんな同じ治療だった。

 

後藤先生

もちろん、今までの治療も重要。プラス個別化医療。 将来的にはすべて個別か治療でいけるのではないか。例えば, EGFR ではイレッサだけではない。薬がたくさん出てきた。それをつなげて長生きができるようになった。多分5年10年で治療は大分変わるだろう。

だから長谷川さんももうちょっと頑張らないとね

 

さくえもん

アハハハハ、がんばりますよ。

 

後藤先生

長谷川さんも調べたらどうですか?タイミングが合えば調べたほうがいいですよ

 

さくえもん

調べたいです。実はもう築地のがんセンターの先生に聞きました。

でもちょっと条件に合わないようでした。僕は原発を手術でとってしまった。だから今体にあるのは転移で、腹膜にあります。これは針をさせますか(検体を取れますか?)と聞きました。そしたらその先生は、「うーん小さい」と。ただ若年で喫煙歴がないということはチャンスがある。だから結局もうちょっと大きくなってからやるということになりました。 今はなかなか難しいようです。

 

後藤先生

これは取材ではなくなってしまうけども、個人的な話になってしまうんだけども長谷川さんへのアドバイスとして聞いて欲しい。

治験には登録の条件がある。その条件に当てはまらない人がいる。例えば全身状態が悪いと,入れない。つまり患者さんの中でも、比較的元気な人しか入れない。だからここからはアドバイスなのだけど、もし腫瘍が大きくなって遺伝子検査ができたとしても、そこからではもしかしたら全身状態が悪くなってね。治験には登録できないかもしれない。だからなるべく早くやった方が良いと思うつまり、腫瘍がお腹にあっても肺にあっても、手術をして取りにいくという姿勢が大切だ。検体は新鮮なものでないといけない。組織が凍結保存されたものでないといけない。ホルマリンで固定してあるやつだけでは登録できない 。 遺伝子解析するので、そこはハードルになる。しかし、ここは踏み込んで取った方が治療に結びつく。検査のために手術するのかと考えるとリスクもある。しかしその先のことを考えると少しふみ込んだ方がいい。 これはアドバイスです。

 

さくえもん

ありがとうございます。

 
 

今回はここまで。続きます!

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