top of page

肺がんの治験の潮流とドラッグラグについて

前回、国立がん研究センター中央病院・治験管理室室長の山本昇先生にお話を伺いました。そのとき大変興味深いお話をしていただきました。非常にもったいなく、ここにアップします。



★肺がんの治療・治験の潮流について




―――肺がんの治験はほかのがん種と比べて、多いほうなんですか?




山本

肺がんは、今治験は多めだと思います。理由は二つだと思うんですね。一つは、免疫関連の薬の開発は、肺がんは今優先されていますね。メラノーマはひととおり開発が終わったので、今肺がんとか膀胱がんとか腎がんとか、その辺が今第1集団です。第2集団が、胆管がんとか胃がんとか肝臓がんとかが第2集団だと思います。要は、免疫チェックポイントっていうじゃないですか。それが効きそうながん種の第1集団、今2集団まで下りてきてますね。肺がんは第1集団に入っているので、開発は今、第3相ぐらいまでいっているのが多いです。それが一つ目の理由です。



 もう一つは、ドライバー遺伝子(※)ってあるじゃないですか。ドライバー遺伝子は別に乳がんでも大腸がんでも、とか卵巣がんとかでも一部あるんですけど、肺がんが結構見つかっているんですよ。なので、ドライバー遺伝子に対する薬の開発っていうのが出てきています。今は相手(がん)の遺伝子がわかれば薬の化学構造式っていうのはコンピュータ上で自由に変えられるんですよ。例えば、薬の結合を立体的に何度ずらして変えるとかいうのはコンピュータ上でできて、それを薬を作ることができるんですね。例えば開発してる薬を、その薬が本当にいいかどうか、ほかのメーカーの薬と比べるときに、ほかのメーカーの薬を自分のところの会社で作れるんですよ、そういう時代なので、すぐ作れるんですね。だから、ドライバー遺伝子が見つかれば創薬は比較的できるんです。ALKなどの開発も進んでいますし、それ以外のドライバー遺伝子も結構進んでます。まさに進行中ですね。

(※ドライバー遺伝子)

がん遺伝子・がん抑制遺伝子といった、がんの発生・進展において直接的に重要な役割を果

す遺伝子をドライバー遺伝子と呼ぶ。




―――「ゲノム医療」「高精度医療」などの言葉をよく聞きます




山本

時代がそれを要求しています。結局サイエンスの進歩がそこまできたってことです。いわゆる病気を普通に治療していたのが、例えば、がん腫ごとに治療するようになりましたね。例えば、肺がんとか胃がんとかで治療するようになったけど、今度組織別に治療するようになったじゃないですか。腺がんとか小細胞がんとか。それが今度は遺伝子別の治療になってきた。遺伝子別の治療になれば、それに伴う創薬が必要だし、その患者さんがどういう遺伝子の状態を持ってるかっていうのは調べなきゃいけなくなってきたので、ゲノム医療になりますよね。サイエンスの進歩がそこまできたっていうことですね。




★肺がんのドラッグラグについて
アメリカの治験検索サイトをみてびっくりしたことがあります。それは日本の治験の数が圧倒的に少ないことです。治験の進みが遅いというドラッグラグの問題がありますけども、そもそも治験をあまりやっていないということではないのか、その辺を聞いてみました。




―――自分の病院で何の治験をするか、しないかはどのように進んでいくものですか?




山本先生

施設側からの目は、依頼がきたときに、私はフェーズ1とかのほうをやってるんですけど依頼がきたときに、魅力があれば当然受けるというか、こちらもやってみたいという希望を出しますよね。日本の患者さんのために開発に携わりたいっていっていう、話があれば。でも、薬はいろんなものがあって、例えばクリニカルトライアルズドットガバメント(治験検索サイト)を見ると薬いろいろあるんですけど、すべて魅力があるわけではないんですよ。そこに治験はたくさんありますけどね。やっぱりいろんな薬がありまして、何じゃこりゃ?っていうのは時々ありますよね。




一同(笑)




山本先生

ありますよね。でも最終的に直面するのは人ですから、やっぱりそこで何でもいいっていうわけにはいかないですよ、それは。治験は不確定なものですけども、最終的には効いてほしいじゃないですか。そう思ってやる。本当はそれ前面に出しちゃいけないんですけどでもそう思っちゃうわけですよね。最終的にはやる患者さんには効いてほしいと思って、そう言いませんけど、そう思ってやりますから。そうすると、何か変な薬、これどうですかって言われると・・・はいっ!?てことになりますよね。ちょっと考えますよ。あとは海外が多くて日本が少ないのは、これは薬のグローバル開発の中の構図です。例えば、製薬企業のグローバルカンパニーだとしますね。で、グローバルカンパニーの親分が新しい薬を開発するときに、どこで開発したらいいと思うかって考えたら、日本に持ってこようかってあまり思わないんですよね。自分たちは英語ぺらぺらとしゃべるのに、英語がしゃべるのが苦手な先生もいるような国に持っていかないんですよ。でも、そんなにもうドラッグラグないと思いますよ。今、例えば今日は肺がんがメインですけど、肺がんのドラッグラグなんてほとんどないですよ、もう。あるって感じませんから。ちょっとは遅れますよですけど、これは困ったドラッグラグで、もうどうにかしなきゃって感じじゃなくて、ちょっと待てばくるじゃないって感じで、その時間がすごく短いので、肺がんに関してはドラッグラグという感じはもうほとんどないです。




―――それは心強い言葉ですね。




中濱

ちなみに欧米で承認されているにもかかわらず、もしくは承認しようとしているにもかかわらず、日本で試験すらしていないっていうものはほとんどないんです。ごく希少疾患の本当に四つ、あ、実は10個ぐらいあるんですけれど、その中の四つぐらいと考えています。あとの六つというのは、もはやもう試験をする必要がない、ほかのものをもう、もっと効果のあるものを日本が先試験をしているのでっていうことで、実はちゃんと比べてみると、ほぼほぼないというのが今日本の現状ですね。




山本先生

日本っていうのは、世界で多分第2位か第3の薬のマーケットなんですね、世界的に見ると。ですから、製薬企業っていうのは日本って大事にしてるんですね。ですから、例えば海外は先に始めるかもしれないけど、日本を完全に無視するってことは絶対にないんですね。ですから、そういう意味ではドラッグラグ、ゼロじゃないですけど随分減りましたね。




以上です。みなさんどうでしたか。私は大変ためになりました!



※この記事は公益財団法人正力厚生会の助成金によって作成されました

bottom of page