今こそ、患者・医療者が共に
ルビコン川を渡る時(がん医療共済セミナー) ~ その3
皆さん、こんにちわ。
ルビコン3回目。
今回は、肺癌学会理事長で近畿大学医学部呼吸器外科の教授でもある光冨先生の講演「肺癌学会の新たな取り組み」を見てみます。
動画はこちら。
光冨先生は呼吸器外科の先生ですね。 米国国立癌研究所で肺癌の分子生物学の研究もされていて、外科手術だけでなく肺癌の臨床分子生物学や分子標的治療にも詳しい先生です。
九州は福岡出身。 シャープな風貌にしては(?)趣味は音楽(チェロ・ピアノ)だったり家庭菜園だったり。
今回の講演もユーモアをたっぷり混ぜていただいて和やかな雰囲気で始まりました。
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まず、この数字、7万7300という数字。 おわかりでしょうか?
これはわが国で1年間に肺がんで亡くなられる患者さんの数です。 毎日、200名以上の方が肺がんで亡くなる計算になります。
臨床医として本当に憂慮すべき状態でありますが、それでも明るい希望が見えてきています。 まず、肺癌治療の現状を簡単にお話します。
最近の肺癌の進歩がどこにあるかというと、やはり基礎研究が非常に大事です。
がんは遺伝子の病気でして、それも遺伝子異常が非常に多彩であることがわかってきました。 遺伝子異常は少ない数の遺伝子変異から150におよぶ遺伝子変異まであり、非常に多彩であります。
基礎研究の成果と臨床での肺癌治療が21世紀になった重なってきたということを本当に実感しています。
当初はがんの有効な治療は外科手術しかありませんでした。 ロボット手術、胸腔鏡手術などの進歩はありますが、治らないがんを治すことに関しては外科の世界ではあまりない。 放射線もいろいろな照射技術がでてきています。
やはり、がんが全身に転移した場合、がんの克服のためには薬の進歩が絶対なんですね。
肺がんはある意味、薬の進歩に対してモデル的なガン種です。
肺癌は抗がん剤が効きにくいと思われていましたけど、分子標的治療や免疫チェックポイント阻害剤といった治療が肺癌に対してでてきました。
非小細胞肺癌と診断された患者さんが来られた場合、どのように治療が選ばれるかという、薬物療法の全体図を見てください。
この図の中、青字で書いたのが肺癌の遺伝子変異ですけど、遺伝子変異をしらべ、あるいはPD-L1という免疫チェックポイント阻害剤が効くかどうかの検査をして薬が選ばれます。
肺がんをひとつの病気と見なさずに違う病気の集合体として見ていることが、ある意味、肺癌が近年の治療の進歩に対してモデル的、と言われることがわかります。
このグラフを見てください。
肺がんのり患数と死亡数の推移です。 死亡数も増えていますが、り患数はもっと増えているんですね。 り患数と死亡数の差が広がっていますが、この間の方(薄い黄色の部分)は治療によって治る可能性がでてきた、ということです。
例えば1976年ですと、り患数と死亡数がほぼ重なっていますが、年を追うごとにすこしずつ離れています。 分子標的治療がでてきた21世紀以降はこの差がもっと広くなってきていて、これはまぁ、少し喜べる状態かと思います。
とはいっても、死亡そのものは増えていますので、これを何とかしなくてはいけない、というのが私たちに求められた仕事であります。 そこで日本肺癌学会の話に入ります。
日本肺癌学会の歴史は古くて昭和35年に日本肺癌研究会という名前で発足し、現在では7、600名の会員数です。 単一の臓器のガンの学会でこんなに大きな人数がいる学会は世界的にもなく、我々の先輩方が築いてこられた学会です。
そこで、我々は何を目指すのか。
肺がんの治療はもとより、社会情勢の変化もあり、昨年の1月に常任理事が泊りがけのブレインストーミングをして我々の目的を見直しました。
やはりみんなで話して一番大事だと思ったことは、「患者さんのことを大事に考える」ということです。
学術的なことを発表したり、研究したり、ということだけの活動からすこしずつ変わっていこう、ということです。
それを行動規範 = コアバリューとしてまず第一に「患者さんを最優先に考える」をおき、肺癌学会の行動規範としました。
このコアバリューに従って、いくつか私たちの活動を紹介します。
まず、患者さんのアドボカシー活動です。
学会のトラベルグラント(患者さん・家族さんが学会に参加される時の旅費の支援)をしたり、肺がん患者連絡会を全面的に支援したいと思っています。
アドボカシーという言葉。 「患者さんの立場に立って、政策や制度面から問題解決に取り組む活動」という意味です。 これは非常に重要なこととして取り組んでおります。
科学的な活動では、肺癌取扱い規約、肺癌診療ガイドライン、遺伝子変異検査の手引きを作って良質な医療を均質に届けるようにしています。 まだガイドラインでは患者さんの代表も入っていただいています。
年に一度の学術集会とは別に学会の活動として市民公開講座を年に4,5回やるようになりました。
また、学術集会では患者・家族向けプログラムがあります。
Web上では「肺がんヘルプデスク on the Web」というのやっていまして、 74のテーマについてQ&Aという形式で動画を配信しています。 これは肺がん医療向上委員会のホームページ http://jalca.jp/helpdesk でご覧になれます。
政策提言ですが、 肺がんの専門医として重要な薬剤の早期承認を当局に発信するようなことも大事な使命と思っております。
これは実際に出したものの例ですが、患者会と連名で行っています。
私の前任の中西先生が「肺がん医療向上委員会」という常設の委員会を作られまして、市民公開講座などはその一貫でもあります。 ここに紹介する肺がん医療向上委員会も、その常設委員会の催しの一つで(ちょっと紛らわしいですが)四半期毎に開催しています。 企業や肺がん患者さんも参加されて、その時のホットなテーマで開催しています。
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いかがでしたでしょうか?
光冨先生の講演の後半は一部割愛して紹介させていただきました。 ぜひ動画をご覧ください。
光冨先生は「学会も変わりつつあります」と何回かおっしゃていたように思います。
筆者Kは昔の肺癌学会をしらないのでピンとこないのですが、この「患者さんを最優先」という方針は光冨先生だけが今初めたわけではなく、ここ何年かの積み重ねの結果、学会のコアバリューとまでなった、ということなんでしょうね。
光冨先生が講演の中で紹介してますが、肺がん医療向上委員会、機会があれば参加してみてはいかがでしょうか? また講演の動画は公開されているので、ホームページから見ることができます。
いろいろ勉強されていて、市民公開講座の講演とかは物足りないという患者・家族の方、興味をもたれるテーマがあるかもしれません。
蛇足ですが、製薬会社がスポンサーではないので、お薬の名前も「分子標的薬A」みたいな未成年被疑者でなく、実名(一般名ですけど)で紹介されてます。
次回、ワンステップ代表、長谷川さんの「肺がん患者になって見えてきた日本のがん医療」を見てみましょう。