聴覚障害者に対するがん支援⑤(最終回)

前回の続きです。
まず救急車出動のデータが間に合っていませんでした。横浜市には、聴覚障害者が救急車を要請するとき、手話通訳を一緒に要請できるシステムがあります。それは活躍しているのか?消防署にききました。

平成26年、横浜市の救急車の出動回数は17万6119件。そのうち、聴覚障害者からの手話通訳派遣の要請があったのは、36件だそうです。

補足・解釈します。
①聴覚障害者の要請数が少ない気がします。横浜市民は350万人で出動回数は17万6119件。比率で計算してみると、聴覚障害者は530件ほど要請があっていいという計算になりました。しかし、実際は36件。予測の7%ほどしか使っていません。
そういえば皆川さんが「FAXで救急車呼べないです。」(慌てているから)と言っていました。使いにくいシステムなのかもしれません。だからといって、他に手段は思いつきません。

②36件の要請がありましたが、それは要請であって、本当に手話通訳者が派遣されたのかどうかは、消防にはデータがないそうです。「通訳派遣の依頼があった」と消防は通訳の派遣元へ知らせるだけだからです。では派遣元がどれくらいできているのか?ということになりますが、平成26年のデータはまだ出ていません。わからない状態です。


さて・・・
今回、協力してくれたのは、皆川明子さん。その講演の模様(8分ほど)がYou tubeで公開されています。書き起こしもあります。好きなほうを見てください。一応、書いてきた認識のズレとか、そういうことが頭の隅にあると、講演がぐんと近くに感じられるといいです。そしてこれにて、このシリーズ、終わります。ありがとうございました。

皆さん初めまして。私は皆川明子と申します。聴覚障害を持っています、ろう者です。よろしくお願いします。

私は聴覚障害を持っていて、がんを経験しました。その時にいろいろな不便な体験、不安な体験をしました。私は乳がんであり、手術、抗がん剤治療を終え、経過観察中です。お医者さんからがんと宣告された時には、地元の手話通訳者に偶然同じ乳がん患者がいましたので、私に対してチームを作ってくれました。

そのため、通院の時は通訳が同行してくれるので安心して治療を受けることができました。特に問題はありませんでした。しかし入院となった場合、24時間通訳に同行してもらうわけにはいきませんので、また検査室などには通訳が入れないことが多々ありました。

私は3回入院しました。病棟の医師や看護師とは通訳がいないので、うまくコミュニケーションはとれません。筆談を行いましたが、意思疎通がなかなか取れず、大変な思いをしました。このような中で苦しみ続けました。本当に家族が来てくれたときが唯一ほっとするときでした。

でもそれだけではありません。大変なのはリンパ浮腫に注意するようにと医師からいつも言われていたのです。自分では注意していたつもりですが、親の介護のために、今年の春頃腫れてしまいました。この場合、マッサージなど緊急の治療しなければいけないので、慌てて病院に予約を取ったのですが、その時手話通訳を依頼しても間に合いませんでした。

筆談で何とかすると思い病院に行きましたが、その時の看護師さんはマスクをしたままで話すので、私は耳が聞こえません。マスクを外して欲しいといいましたら、身振り手振りで服を脱いでここにいてと言われました。そのあとプリントを渡され、そこには、リンパ浮腫ですね。このプリントを読んでわからない事があったら今質問してください、と書かれていました。渡されたプリントを読まなければいけないんだ。そんな時間もないし・・・結局質問もできないままでした。 

私たちろう者はコミュニケーションの手段として、手話、筆談、身振りなどがありますが、お医者さんを前にした時に、ちゃんと自分の病状を伝えられるかどうか。または検査の時の説明が十分に理解できるかどうか。医師からの話の内容をきちんと把握してその上で治療受けられるかどうか。など、聞こえる人と比べると不安なことが沢山あると思います。

コミュニケーションの手段は手話だけではありません。筆談もありますし、身振り手振りでも大丈夫です。それをしていただくだけでも嬉しいですが、やはり筆談の場合ですと、声で話す場合と比べると大変ですし時間もかかります。時間を少なくするために情報を少なくしなければならないという限界もあります。そのため筆談の場合は内容を簡単にまとめてしまうという場合が多いです。このあたりで情報格差や通じないことでの誤解が生じています。

確かに通訳がいれば、通訳を介していろいろな話ができるようになると思います。でも実際には緊急の場合だと通訳を頼んでも間に合わない場合があります。どのように解決すべきか。やはり専従の通訳や要約筆記者が設置されているのが良いと思います。しかしすべての病院に通訳を設置するのは経済的に難しいことは私達ろう者もわかっています。

または、通訳ができれば誰でもいいというわけではありません。医療関係者とか医療の専門知識が十分で、治療法などを理解し、正しく伝えることができる通訳者を養成することも大切だと思っています。

がんの場合に普通の病気と違い、本当に個別というか、命に関わる問題です。治療もいろいろな方法があり、やはり知識をもった手話通訳者が必要だと思います。

例えば、地域ごとに専門の通訳者をおいていれば、ろう者がそこに連絡すればすぐに派遣してもらえる。

または24時間対応してくれる組織があれば、私たちろう者も安心して頼むことができると思います。また、治療も受けられると思います。

 

全国には身体障害者が350万人います。その中で聴覚障害者は27万人から28万人と言われてます。実際に聴覚障害者の患者は全国にいっぱいいます。がんに対して適正な治療を受けられず、亡くなる友達もいます。また、がんを治したい、戦っていきたいと考え、情報欲しいと思っているろう者もたくさんいます。聴覚障害者を含むがんを持つすべての人が安心して治療が受けられる社会になって欲しいと私は思います。

 

みなさんにお願いがあります。思いやり。思いやりをよろしくお願いします。聞いてくださってどうもありがとうございました。

 

 

<ご協力いただいた方々>

今回はわからないことだらけで、さまざまな方にご協力いただきました。

まずは皆川明子さん。ありがとうございました。

聴障・医ネットの平野先生、ありがとうございました。

滋賀医科大学の北原先生にもお世話になりました。「受療抑制」という、ろう者の状態を論文にしました。病院にいくことをためらってしまう、みたいな意味です。札幌の病院で手話通訳者が手話のしすぎで怪我してしまう、そんな事件(?)の謎を追っていくストーリー。今回紹介しきれませんでした。次につなげます。また、問題点がわかりやすくまとめられている「聴覚障害者に対する受療支援の現状と課題」は特に参考にさせていただきました

横浜市の聴覚障害者情報提供施設、神奈川県立がんセンター、横浜市立みなと赤十字病院、横浜市民病院の相談支援センターの方々にもお世話になりました。

さらに、斉藤広子さん、岡林さん、三浦暁子さん。ありがとうございました。