肺がんの未承認薬が使える?!

人道的見地からの「拡大治験」って何?

こんにちは。


 これ、医療ライターの福島安紀さんに取材していただきました。厚生労働省まで聞きに行って、直接伺いました。注目の制度は、もう始まって10ヶ月がたっています。でもほとんど知らない。本当に知らなくていい制度なのか?それとも知っておかなければならないのか?ぜひ判断する材料として使ってください。初めて読む方は3回くらい読まないとわかりません。でも、読んでね。



 今年1月に、厚生労働省が、参加条件を満たせなかったり募集期間に間に合わなかったりして治験に参加できなかった患者などを対象に、治験中や承認申請中の未承認薬や未承認機器および未承認再生医療等製品(以下、未承認薬など)を使える新制度「人道的見地から実施される治験(拡大治験)」を開始したのをご存じでしょうか。拡大治験についてリポートします。



▼拡大治験が導入されたのはなぜ?


ワンステップの会員の中には、治験に参加中の方がいるかもしれませんが、治験に参加するためには、年齢、治療歴、合併疾患、病状など、治験実施企業が決めた厳しい参加条件をクリアしなければなりません。実際には、治験薬しか選択肢がないにもかかわらず、参加条件を満たせずに涙をのむ患者も少なくないのが実情です。これらの患者からのアクセスを確保するため、人道的見地から医療上の必要性が高い未承認薬などを提供する制度が、新たにスタートした拡大治験制度です



 この制度は、アベノミクスの成長戦略「『日本再興戦略』改訂2014」(2014年6月24日閣議決定)において、「健康産業の活性化と質の高いヘルスケアサービスの提供」を目的に、保険外併用療養費制度の大幅拡大を目指すための取り組みの一つとして導入されました。米国、英国、ドイツ、フランスには、「コンパッショネートユース」などと呼ばれる制度があり、代替治療薬の存在しない致死的な病気などの治療のために、人道的見地から未承認薬の提供が行われています。日本では、国のがん対策推進協議会でも、2012年から始まった第2期の「がん対策推進基本計画」を作成する際、患者を代表する委員や医師の代表の委員らが、再三、「日本版コンパッショネートユース制度の創設」を要望してきた経緯があります。



▼拡大治験の対象になる治験は?


 では、実際には、どういうものが拡大治験の対象となるのでしょうか。


「対象となるのは、生命に重大な影響がある重篤な疾患か、既存の治療法に有効なものが存在しない疾患の治療薬などです。ただ、治験は未承認薬などの有効性、安全性を確認するための試験なので、それらの使用が、その患者さんにとってはリスクがベネフィットを上回る可能性もあります。ですから、拡大治験は、治験薬などの使い方が設定され、有効性と安全性を確認することを目的とした『主たる治験』が実施されているものに限られます。つまり、治験の最終段階に来ていて、ある程度、有効性と安全性が確認されている治験薬を対象とした治験が該当します」。



厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理の担当者は、そう説明します。



 「主たる治験情報」は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページの「治験情報の公開」

https://www.pmda.go.jp/review-services/trials/0019.html

に掲載されており、毎月更新されています。10月末現在、主たる治験に掲載されている治験(薬物)は、がん、アルツハイマー型認知症、希少疾患などを対象にした664件。そのうち、肺がんの治験は41件ありました。



 また、主たる治験リストの下には、「人道的見地から実施される治験(拡大治験)情報リスト」が掲載されており、10月31日現在、三つの治験薬がリストアップされています。医薬品審査管理課の担当者によれば、この「拡大治験情報リスト」に載っている治験は、あらかじめ拡大治験の要望が高いことが想定されるため、製薬企業側が拡大治験を実施する意向があり、拡大治験の計画届書を提出しているものです。三つのうちの一つは、ROS1陽性の非小細胞肺がんを対象にした治験薬で、現在、初めてのROS1阻害薬として承認申請中の薬です。


https://www.pmda.go.jp/files/000214690.pdf

https://www.pmda.go.jp/files/000214688.pdf


免疫チェックポイント阻害剤がいくつも入っていますね



▼拡大治験に参加するには


「主たる治験のリストを見て、患者さんが拡大治験に参加したいと考えている場合には、主治医の先生に相談してみてください。治験届出者である製薬企業に対する打診は、原則として主治医が行います。拡大治験リストに載っているものに限らず、主たる治験リストにあるものであれば、拡大治験として未承認薬にアクセスできる可能性があります。拡大治験の実施は、対象となる患者さんが1人でも可能です」(医薬品審査管理課担当者)


主たる治験の実施企業が、主治医から拡大治験実施の打診を受けた場合には、その治験の実施医療機関へ連絡が行き、まずは、主たる治験にその患者さんが参加できるか確認します。治験の参加条件に該当すれば主たる治験に参加することになり、該当しなかったりすでに募集が終わっていたりするようであれば、拡大治験の実施を検討します。拡大治験の実施は、原則的に、治験実施医療機関で行います。例えば、ROS1陽性の非小細胞肺がんの患者さんが、主治医に相談すれば、拡大治験に参加して、まだ承認されていないROS1陽性肺がん治験薬を使える可能性があるわけです。



▼患者の費用負担は?


拡大治験にかかる費用は、治験に準じて企業側が負担する場合もあるのですが、制度上は「妥当な範囲で患者負担とすることも可」となっています。また、併用薬があるときには、その併用薬に保険は使えず、薬価を超えない範囲で10割自己負担になる可能性があります。費用については説明同意文書に記載しなければならないとされてはいますが、拡大治験への参加を検討する際には、自己負担額がどのくらいになるのか、必ず確認する必要がありそうです。


一方、企業側が、拡大治験制度に該当しないことを理由に「拡大治験は実施しない」と判断した場合、主治医を通じて要望があれば、該当性を判断したうえで、厚生労働省から改めて企業側に拡大治験実施の検討を要請することもあり得ます。。



「患者さんの病状、すでに治験薬が残っていないなど、拡大治験が実施できない場合もあります。また、治験薬を使ったからといって必ずしも効果が出るとは限りません。未知の副作用が起きるリスクもあることも理解したうえで、拡大治験を受けるかどうか検討してください」。医薬品審査管理課の担当者はそう強調します。



▼必要に応じて制度のフル活用を


拡大治験は、未承認薬の承認を待つ時間のない患者さんが、いち早く未承認薬にアクセスできるようにした制度であり、主たる治験の実施(医薬品の実用化)に影響を及ぼさないことを前提にしています。既に有効性と安全性が確認されつつある未承認薬などの治験が、拡大治験で重篤な副作用が出て大騒ぎになって止まったりすれば、結果的に、医薬品の開発や承認が遅れ、多くの患者さんに悪影響が出かねないことから、厚生労働省は制度の運用には慎重な姿勢を示しています。



 それでも、拡大治験制度の開始によって、治験の条件に該当しなかったり現在承認申請中だったりする未承認薬にもアクセスできる可能性が出てきたことは、患者にとって朗報です。海外で標準的に使われている薬が日本で使えないドラッグ・ラグは、かなり解消してきたと言われますが、ドラッグ・ラグが解消しても、画期的な新薬だと分かってから実際に患者が使えるようになるまでにはタイムラグがあります。従来は、治験中の薬候補はいくら欧米の治験で画期的な新薬だと分かっていても、治験に参加している人しかアクセスできませんでしたし、承認申請からその薬が発売になるまでの約1年間は誰も薬を使えませんでした。そのタイムラグを解消し、人道的見地から、1日でも早く患者が未承認薬などにアクセスできるようにした仕組みが拡大治験というわけです。



すべての人が拡大治験によってよい結果が得られるとは限りませんし、自分が適した治験薬がないこともありますが、「主たる治験情報」を選択肢の一つとして定期的にチェックするとよいのではないでしょうか。治験成分記号と対象疾患、治験届出者名(企業)と限られた情報しかないので、どの薬のことなのか分かりにくいものの、治験成分記号と治験届出者名を入れてインターネットで検索すると、詳しい情報が得られる場合もあります。自分に適したものなのかは、主治医に相談しましょう。拡大治験はまだ始まったばかりの制度ですが、これを使いこなすかどうかにも「患者力」が問われているのかもしれません。
※この記事は公益財団法人正力厚生会の助成金によって作成されました