バイアスを知ろう その3
皆さんこんにちは
さあワンステップ第15回おしゃべり会のリポートの最終回です。迷える子羊たちは、見事バイアスをかいくぐる知恵と技術を身につけることができたのでしょうか?では最終回をお楽しみ下さい。
「バイアス」とは考え方や意見に「偏り」を生じさせるもの。「先入観」とか「偏見」のことです
※尚、講演での先生のご発言やご説明等は、筆者の記憶と当日配布された資料から起こしたものであり、「一言一句正確に再現したものでない」ことをご了承ください。
いよいよ先生の講演は佳境です。
先生は、決断・行動の意志決定において落とし穴となる2つのバイアス(認知心理的バイアス)について説明を始めました。
「選択のパラドックスという言葉を聞いたことがありますか?」
「みなさんは、選択肢が増えることは自由度が増すことを意味し、良いことだと思われるかもしれません。しかしアメリカの心理学者バリーシュワルツはこう言っています」
選択のパラドックス
選択肢が増えることによる悪影響
① 無力感が生まれる・・・あまりに多くの選択肢があると、人は選べなくなってしまい無力感を感じる。
② 満足度が下がる・・・無力感に打ち勝って決断を下したとしても、選択肢が多いと選択肢が少ない場合と比べて自分が選んだ選択肢への満足度が下がる。
おっ、それ分かる。
① は洋服を買いに行ってアレコレ悩んだ挙げ句何も買わないでただ疲れて帰宅!みたいなことですよね?
② はようやく決断して買った服も家に帰ってみると何だか陳腐に見えてきて別の服にすれば良かったなあと後悔してしまう。そういう事ですよね?先生。
さらに先生はもう一つ「プロスペクト理論」というものについてもお教えくださいました。これはアメリカの経済学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによる行動経済学の理論です。
プロスペクト理論
人は「利益」よりも「損失」に敏感に反応する。
質問①あなたの目の前に、以下の2つの選択肢が提示された
A 100万円が無条件に手に入る。
B コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何にも手に入らない。
質問②あなたは200万円の負債を抱えていたとする。そのとき、以下の2つの選択肢が提示された。
A 無条件で負債が100万円減額され、負債総額が100万円となる。
B コインを投げ、表が出たら支払いが全額免除されるが、裏が出たら負債総額は変わらない。
先生はこう解説してくれます。
「質問①について、たぶんみなさんAを選ぶと思います。」
「では負債がある質問②ではどうでしょう。」
「たぶん全員ではないけれども一定の割合でBを選択する人が出てきます。」
(ほうほう)
確かに質問②は微妙な感じです。無条件で負債が半分(100万円の利益)も魅力的だが50%の確率で負債が「チャラ(200万円の利益)」にも大いに惹きつけられる。落ち着いて考えれば期待値的には100万円の利益で同じはずだが、全額負債免除の魅力は大きい気がします。
先生はこれを医療に当てはめて説明を続けました。
「みなさん(患者)は確実に利益が得られる選択肢(言い換えれば確実に効く治療)を選びたいと思っています。」「しかし医師が提示する治療法はエビデンスがあるとはいえ、100%治るとは言えないもの(不確実性の存在)です。」
(うんうん。これは質問①のケースにあたるのだな)
(そうか!じゃあ負債があるという前提の質問②のケースは、辛いけど根治が望めない進んだステージの場合と考えればいいのかな)
(なるほどそうか!先生はここでも私たちに注意喚起をしてくれているのだ。一発逆転に惹かれギャンブル性の高い「夢の治療法を謳う怪しい治療」へ引き寄せられてしまう事へ警鐘を鳴らしてくれているのかもしれない)
先生は、最後に
「患者力アップのコツ」や「怪しい医療を見分けるコツ」は今日学んだバイアスを踏まえ「人の頭はもともとだまされやすい」ということを意識し常に謙虚であること、そして「数字に振り回されないこと」であるとまとめられました。
「本日はご清聴ありがとうございました。」
そう締めくくられて大野智先生の「熱い講演」は大喝采の後、終了したのでした。盛りだくさんで、本当に楽しくエキサイティングなあっという間の1時間でした。
この後ワークショップへと続いていったのですがたった500円で2倍も3倍も楽しめるワンステップおしゃべり会はワンダフルといわざるを得ませんね!気がつけば第16回のおしゃべり会は1月26日です。もうすぐそこまで近づいています!是非皆様のご参加をお待ちしております。
最後に当日ご参加いただいた方々から頂いたアンケートを集計・分析しましたところ大変興味深い結果が得られましたのでこの場にて一部ご紹介してリポートのまとめとさせて頂きます。
バイアスを知ると患者の考えはどう変わるか?
と題して「バイアス」を知ることが、患者の考えにどのような影響を与えるのかを調べたところ、
(1) 化学療法や代替療法への考えを問う設問では、科学的根拠(確率論や不確実性)の理解が深まった事を示す選択肢を選ぶ者が30%以上増加した。
(2) 医師との人間関係や自分と家族の思いの齟齬を問う設問では、考え方におけるバランスが重要であるとの認識の高まりを表す選択肢を選ぶ者が50%以上増加した。
という変化がみられたのでした。
ん??それってどういう事?アンケートも見てないしよく解らないよーとおっしゃる方大勢いらっしゃることでしょう。
つまりざっくり言うと先生の講義を聞いてその後ワークショップに参加したら
「頭が良くなった!」(笑)
「知識を使いこなせる思考の柔軟性を身につけた」
となったのです。
しかしその一方で、
いろんな事を知れば知るほど「人は一人では決められない・生きられない」
という事実に苦悩することになるということも明らかになって行ったのでした。
これからも私たちワンステップは、そういった「悩める仲間とともに歩む」患者会であり続けたいと思っています。
おわり。
書いてくれたのはまりもさんです。感謝。
※このワークショップは、アステラス製薬株式会社さんの助成金を受け、開催されました。感謝申し上げます。
※大野先生の連載です。詳しく知りたい方はこちらをどうぞ!
https://www.asahi.com/articles/SDI201901148249.html?iref=com_api_hea_kikutop