第9回日本がんサポーティブケア学会学術集会
2024年5月18日~19日
がん患者に対する困った配慮に関するPPIワークショップ」
を発表させていただきます。
著者は、長谷川一男、齋藤宏子、五十嵐育子、豊田礼子、米澤晴美です。
研究の背景です。
SDGsの観点から、“多様性の尊重”が、社会のあらゆる場面で重視され、
第4期がん対策推進基本計画では、「誰一人取り残さない」がん対策を推進するとしています。
そこで、本研究は、がん患者の多様性が尊重される社会の実現を目的に、
がん患者に対する「偏見」や「思い込み」の現状を明らかにしようと、
がん患者会が中心となって実施いたしました。
方法です。
神奈川県 がん患者団体連合会に所属する、13の患者団体の構成員から、
がん種を問わず、肺がん、乳がん、頭頚部がん、GISTなど、
複数のがん種の会員に参加を呼びかけました。
参加者から、これまで受けた困った配慮、戸惑った配慮を聞き出すために、
東京と大阪の2か所でワークショップを開催しました。
東京では、2023年4月15日に、参加者24名を集めて実施。
大阪では、翌週の22日に、参加者13名を集めて実施しました。
会場の様子です。
がん種、ステージ、病状、年齢、性別の異なる、初対面の患者が会場に集まりました。
最初は、一人一人、自分が困った声掛けや配慮について、書き出しました。
そして、対話を用いて共有しましたが、対話に刺激されて想起したことも書き足しながら、
参加者全員で、全ての意見を共有しました。
次に、参加者全員で、「困り度大」、「困り度小」軸と、
「社会通念が変化しないと解決できない」、「個人レベルで解決できる」軸の2軸で切り分けた4象限を用いて、
「困っている配慮マトリックス」を作成しました。
その後、個々の配慮がどのような偏見から発生しているのかを全員で議論しました。
参加者の詳細です。
東京24名のうち、男性は21%、女性は79%。
年代では50代が半数を占め、ステージⅠが半数を占め、次いでステージ4が多く集まりました。
大阪13名のうち、男性は33%、女性は67%でした。
年代は40代と50代が同数で合わせると8割を超え、ステージ4が多く集まりました。
結果です。
やめて欲しい配慮は、東京で71挙がりました。
東京では、「困り度大」かつ「社会通念が変化しないと解決できない」配慮として、
「治療に専念すべきと諭される」「高額な民間療法を紹介される」「お金を借りてでも民間療法を受けるよう諭される」ことが挙がりました。
「金に糸目をつけずに治療すべき」という偏見が背後にあるのではないかと推測されました。
大阪では、
「本人に相談なくがんを広められる」、「がんであることを公開すると売名行為であると噂される」が
「困り度大」かつ「社会通念が変化しないと解決できない」配慮として挙がりました。
患者側からは悪意があると感じてしまうこのような行為の背後には、
「がんであることを伝える範囲は本人だけの問題ではない」という社会の偏見があるのではないかと推測されました。
考察です。
がんは罹患率が高く、身近な病気のため、がん経験の有無に関わらず、治療や生活の変化に対するイメージを持っていると思われます。
しかし、実際に罹患してみると、がんの種類や治療法には多様性があり、がん患者自身にも家庭や立場の多様性があり、
社会から受け付けられたイメージや、誰かの経験談が役に立たないことを患者は経験します。
SDGsを推進する文脈の中で、「アンコンシャスバイアス、すなわち無意識の偏見」を無くそうとする活動が増えています。
社会からの偏見や、社会が良かれと強要する配慮に苦しむがん患者を減らすには、
「がん患者の多様性」を発信し、個々の希望を知ろうとする文化の形成が必要と思われます。
ご清聴ありがとうございました。